私の恋心と彼らの執着

「週末、嫁が子供と来るんだ」
「……そうなんだ。久しぶりじゃない?」
「幼稚園の行事が最近続いてたみたいだからな」
「ふうん。お子さん、きっと喜ぶね」

 ……ずるいなあ。
 よりによってこの場で、家族の話をするなんて。

 なんでもないことのように言われたら、なんでもないことのように返すしかない。
 そうする意味なんてきっと無いのに、物わかりのいい女を演じてしまっている。

 本当は、胸の奥が引っかかれるようにチリチリと痛んで、すごく嫌な気持ちなのに。

 その気持ちが、わずかに残っている恋心ゆえなのか。
 空気を読まない彼の無粋さが腹立たしいからなのか。
 どちらなのかは、自分でもよくわからない。

 たばこを吸い終えた彼は、終電に間に合わせるために、さっさとシャツに腕を通している。
 置いて行かれないよう、私も下着を身につけ、服を着た。

 いつものホテルを出て、最寄り駅でいつも通り、反対方向の電車に乗るために改札で別れる。

「じゃ。気をつけて帰れよ」
「はい」

 こんな時だけ気遣いを見せるのは、彼の「課長」の顔なのだろう。

 ホーム同士を隔てる線路は、私と彼の間に引かれた、長い長い境界線のようだと思う。

 世間の常識と法律で引かれたその線は、消すことができない。越えることも本来は許されない。

 ──私たちは、許されない関係なのだ。

 遠ざかっていく、課長の乗った電車を見ながら、毎週そう思わされる。

 それなのにどうして、離れてしまうことが、できないのだろう。
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