私の恋心と彼らの執着
私の抱える煩悶をよそに、日にちは普通に過ぎていく。
気づけば夏の暑さは影をひそめ、秋の気候になり始めていた。会社の女子用制服も夏物から秋冬物に衣替えした。
その日、給湯室で自分の湯飲みとお弁当箱を洗っていると。
「……なんだ、いたのか」
「何、いたら悪い?」
顔をのぞかせた文隆に意外そうに言われて、ちょっとムッとする。
私の反論に「いや、そういうわけじゃないけど」と文隆は弁解を始めた。
「てっきり、誰もいないと思ったから」
そう言いながらジャケットの内ポケットから出そうとしている物を見ると、たばこの箱だ。
社内に喫煙室はもちろん設置されている。各階にではなく、社員食堂のある下の階のみにだけど。
「喫煙室行きなさいよ」
「下まで行ってる時間ないんだよ、またすぐに約束あるし」
1本だけ、と言い訳しながら、文隆はくわえたたばこに火をつけた。癖のある匂いの煙が漂い始める。
なんでもないふりを心がけながら、私は顔をそらした。
……いつの間に、あの人と同じ銘柄を吸うようになったのか。
文隆が喫煙するようになったのは大学の頃からで、何度となく吸う姿は見ているけど、ずっとひとつの種類に固定されていたはず。