私の恋心と彼らの執着

「は、離して」
「嫌だ」

 私の訴えを一言のもとに切り捨てた文隆は、ぐっと顔を近づけた。
 あと数センチ近づいたら、キスしてしまいそうな距離に。

「俺の気持ち、知ってんだろ」

 その声はいつもよりもいっそう低く、かすれていた。

 知っている。
 文隆が、いつからかはわからないけど、私を好きなのだということは。

 それに気づいたのは、彼と付き合うようになってから。
 より正確に言うなら、付き合って3ヶ月くらい経った頃。

 逢瀬の後、彼とホテルを出るところを、残業帰りの文隆が偶然見ていたのだ。
 翌日、非常階段に連れ込まれて、ずいぶんとお説教された。

『課長は既婚者だぞ。意味わかってんのか』
『わかってるわよ』
『だったら何で、あんなこと──他の奴にバレたら会社にも知られるんだぞ。そうなったらただじゃ済まない』
『だから、わざわざ言われなくてもわかってる』
『わかってんならやめろよ。……俺、おまえが傷つくのなんか見たくない』
『余計なお世話よ。私が傷ついたって関係ないでしょ、あんたには』

 そう返したら、見たことのないような、怖い表情をしたのだ……さっきのような。
 そして、好きだと言われた。
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