私の恋心と彼らの執着

 自由の利かない状態で、私は必死にもがいた。

「おねが、──っ、やめて……」

 乳房を揉み始めた手を懸命に剥がそうとしても、息苦しいのと自分の手をうまく動かせないのとで、びくともしない。
 目尻に涙が浮いてきた、その時。

「何してる?」

 その声に、一瞬だけ、助かったと思った。
 けれどすぐさま、足下まで血が下がっていく心地がした。

「……紀野課長」

 給湯室の入口に立っているのは、彼。
 外回りから帰ってきたばかりのようで、鞄とアタッシュケースを手に下げている。

 動きを止めた文隆は、彼に聞こえないぐらいの音量で、舌打ちをした。
 私を拘束していた身体を離し、顔だけ振り返って答える。

「何でもありませんよ、課長」
「──小幡か。確かそろそろ、顧客との約束の時間じゃなかったか」
「これから行きます。どうぞご心配なく」

 今までのふるまいが嘘だったかのような、けろっとした顔をして、文隆は出ていった。

 …………なんなのよ、いったい…………

 戸惑いながら視線を戻すと、彼が当然ながらというか、こちらをじっと見ている。

 何を言うべきなのか、言い訳するべきなのか。
 言葉が出てこない、見つからない。

 数秒、あるいは十数秒。
 見つめ合った後、視線をはずしたのは彼の方だった。
 何も見なかった、といった空気を漂わせて、去っていく。

 ……私が迫られているのを見ても、彼は、少しの関心も反発も、嫉妬も感じないのだろうか。
 もう、それだけの存在になっているんだろうか。

 ひとり取り残された私は、ただ、かき乱された気持ちを抱えて、立ち尽くすしかなかった。
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