私の恋心と彼らの執着

原嶋(はらしま)さん、おはよう」
「おはようございます、紀野(きの)課長」

 木曜の朝。
 私たちは同じ営業部の、課長と営業事務として挨拶をする。
 昨夜は何もなかった。そんな表情をするのにも、すっかり慣れた。

「今日は何か、急ぎの案件はあったかな」
「オールブライト社の注文が入ってくると思います」
「ああそうか。あそこの注文は数が多いが、大丈夫そうか」
「毎月のことなので工場に融通は頼んでいます。後で確認しておきます」
「頼む。僕は午前いっぱい外だから、何かあったら携帯に」
「承知しました。お気をつけて」

 いつも通りの、業務確認作業。
 紀野課長と毎朝そうするようになってから、2年が経つ。
 ──そして、木曜に何でもない表情を装うようになってからは、1年。

「おはよう」
「あ、おはよう」

 課長との話が終わった後。
 お手洗いに行き、席に戻る途中。
 すれ違う形で挨拶してきたのは、同じ営業部の主任、小幡(おばた)文隆(ふみたか)
 私、原嶋ゆかりとは、子供の頃からの幼なじみでもある。

 実家が近所で、幼稚園から高校までが同じ所だった。
 それぞれの希望で大学は離れたのに、なんの偶然か、同じ会社の内定をもらった。
 おまけに、配属部署まで一緒になった。こういうのを腐れ縁と言うのだろうか。
 入社してから6年、クラスが別々だった中高の頃よりも、ある意味よく会っている。なにせ営業部は1フロアの一画に固まっているから、よほど予定のすれ違いがない限り、全員と1日1回は顔を合わせるのだ。
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