私の恋心と彼らの執着

「これから外?」
「そう」

 営業用のカバンを持っているのでそう聞いたら、肯定された。
「今日は【五・十日(ごとび)】だから道混んでるわよ。運転気をつけてね」
「言われなくてもわかってるよ」
「ならいいけど。行ってらっしゃい」
 そう言って話を打ち切ったのだけど、文隆はその場を離れない。
 身長差約20センチの、頭上から、じっと私を見つめる。

「まだ、会ってんのか」
「誰と?」
「いいかげんやめろよ」
「何を?」

 月に一度は交わされるやりとり。
 始業後すぐで、周りには誰もいないけれど、私はすっとぼける。

「……その気、まだないんだな」
「ごめんね、仕事あるから」

 どこか辛そうに言う文隆をやり過ごし、自分の席に戻る。
 この会話の終わらせ方ももはや恒例だ。

 ──終わらせ方。

 いつまでも続けられる関係じゃない。
 いずれは終わらせなくてはいけない。

 そんなことはわかっているのだ。頭では、これ以上ないほどに。

 なのに断ち切ってしまえない。この感情は何なのだろう。
 恋だろうか、愛だろうか。
 ……それともただの、執着と未練だろうか。
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