私の恋心と彼らの執着
もちろん、初めからこんな関係だったわけではない。
2年前に知り合った時、彼は本社からこの支社に営業課長として転勤してきたばかり。
私は、新任課長付きの営業事務として、部署内で異動したのだ。
『はじめまして、紀野です』
『原嶋と申します。い、至らぬ所もございますが、よろしくお願いいたします』
『よろしく。そんな畏まらなくて良いよ』
『は、はいっ』
本社のエリート社員、と名高い人物を目の前にして、私はガチガチになっていた。
相手が、支社では見かけなかったタイプの、都会的で端正な容貌をしていたことも理由だろう。
私はいわゆるイケメンに対して、ものすごく緊張する性質だった。これといって嫌な思い出があるわけではないのだけど、大げさに言えば芸能人を前にしているような気持ちになるのだった。そのせいで舌はうまく回らなくなるし、表情は固くなってしまう。
本社で20代で係長になったという人物が支社に課長待遇で来たのは、武者修行の意味合いがあるのだという噂だった。いずれ役員にまで昇りつめる人間だから支社の実情も肌で知っておいた方が良い、という上の判断による采配だとか。