私の恋心と彼らの執着

 ところが。

『さっそくだけど、原嶋さんの席はどこかな』
『あそこです』
『あの位置じゃ、僕の所まで遠いだろう。すまないけど君、席を替わってくれないかな』
『『えっ』』

 唐突な提案に、私と、指された席にいた同僚──森中さんの声が重なった。

『で、ですが私は、ここの水田さんの担当でして』

 森中さんが隣の席を指すと、紀野課長は顎をつまんで首を傾げた。そして。

『よし、この際だから配置替えをやろうか。それぞれの希望を木曜までに僕に提出してくれ。今週の土曜に作業をおこなう』

 ええっ、と誰もが仕事の手を止めて騒いだ。無理もない。部署内、ひとつの課の中とはいえ、配置替えは単純な席替えで終わるものではない。内線番号が変わるし、機器の配線にも気を遣う作業なのだ。
 おまけに本来は休みの土曜日をいきなり潰されるなんて、納得がいかないだろう。

 けれど紀野課長は、それをやってのけてしまった。
 本社でも世話になっていたという業者に話をつけて、こちらの支店から人を寄こしてもらい、午前のたった1時間半で配置換えを終えてしまった。普通なら午前いっぱい、どうかすると午後までかかる作業なのに。

 その采配のスムーズぶりに、部署の誰もが、紀野課長に心酔するようになった。
 見た目のクールさに反して面倒見の良い、たいした上司だと。
 もちろん私もその一人だ。紀野課長付きになった私を、営業事務の同僚の多くが羨んだ。
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