私の恋心と彼らの執着
始まりは、期日の勘違いだった。
8日と言われたのをどういうわけか、私が20日と聞き間違えた。さらには数日後の相手方との確認でも、同じ聞き間違えをしてしまった。
当然ながら「指定期日に間に合わないとはどういうことか」とクレームが来て、その日は1日、対応に追われた。紀野課長は顧客の会社と仕入先に出向き、何度も頭を下げたという。
対応は就業時間内には終わらず、残業することとなった。
誰もいなくなったオフィスでようやく仕事を終えた頃、外に出ていた紀野課長が戻ってきた。
『原嶋さん、終わったか?』
『……終わりました』
かすれた声で答えると、課長はほーっと息を吐いて、私の隣の席に座り込んだ。
『よかった、なんとかリカバリーできたな。ご苦労さん』
紀野課長はそう言って笑ったが、私はとても、笑う気にはなれなかった。
今日1日、課長に、する必要のない仕事で駆けずり回らせた上、する必要のない謝罪を各方面にさせたのだ。私の単純な、だけど致命的なミスで。
あまりに申し訳なくて、隣の課長に顔向けできない。
うつむいたままでいると、紀野課長が唐突に提案してきた。
『腹減っただろう。飲みに行こうか』