私の恋心と彼らの執着

 そうして、連れて行かれるままに、駅前の居酒屋に入った。
 ビールをジョッキで頼まれ、いくつかフードも並べられたけど、どれにも手を付ける気にはならなかった。

 紀野課長は、ビールが好きでないらしく、ハイボールを飲んでいた。

『…………申し訳、ありませんでした…………』
『ああ』

 私が絞り出した謝罪に、課長は短く応じた。
 それきり、何も言わない空気に耐え切れなくなって、また同じ言葉を発した。

『本当に、申し訳ありませんでした』
『ん』
『……それだけですか?』
『もう済んだことだろう。何度も謝る必要はない』

 必死に謝っているのを軽くいなされた気がした。私はジョッキをつかみ、ビールを一気に飲み干した。

『お、おい。大丈夫か』

 さすがに焦った声を出した課長を、私はアルコールが回る勢いのままに睨みつけた。

『……課長は、優秀だからおわかりにならないでしょうけど』
『え?』
『私みたいな凡人はいつも必死の努力で仕事してるんです。周りからはみ出ないようにって。……だから、今回みたいな失敗は私には致命的なんですよ。どうかしたら顧客をひとつ失うところだったんですから。どうして、課長は怒らないんですかっ?』
< 8 / 31 >

この作品をシェア

pagetop