私の恋心と彼らの執着
『僕が怒れば、原嶋さんは満足するのか?』
『……え』
思いもしなかった平坦な響きの質問に、私は虚を突かれた。
『そうじゃないだろう。君は充分すぎるほどに、自分のしでかした間違いを悔いてる。そこに僕が怒ったところで、何か進展が見込めるか? 君を萎縮させるだけだろう。
そんな無駄なことをするぐらいなら、反省してる君をねぎらって、明日からきちんと仕事してもらう方がずっと効率がいい。僕は過ぎたことをいつまでも引きずるのは嫌いなんだ』
淡々と言われる言葉に、はっとした。
起こしてしまった事態は、もう仕方ない。なんとか収拾もついた。
だが同じ失敗を二度としないように、じっくり反省して、明日から頑張れと。
口調はずいぶんとクールでフラットだが、励ましてくれているのだ。
それにようやく気が付いた。
『……課長』
会社では面倒見がいい課長は、言葉にするのは意外に不器用らしい。
そう思った瞬間、ぼろりと、涙がこぼれ落ちた。
ぐすぐすと泣く私の頭を、紀野課長は、大きな手でずっと撫でてくれた。無言で。
……そうされているうちに、なんだか、離れがたい雰囲気になってしまって。
居酒屋を出て繋がれた手を、私は振り払わなかった。
その夜、私と課長は、裏通りのホテルで一線を越えたのだ。