嘘をつけない彼女達の事情
大学卒業後、就職して三年が過ぎた頃、タカヤからのプロポーズを私は素直に喜び受けた。







つもりだった。

タカヤに返事をした時、真っ先に浮かんだのは彼とこれから歩む幸せな未来図ではなく、

さすがにユリカもこれで諦めるだろうと言う安心感の方だった。

もしかしたら私はーーー

ユリカを警戒するあまりタカヤに必要以上に執着していただけかもしれない。

そんな思いに行き着いたのは結婚して五年目の春だった。

気付けばアラサー。

前にも後ろにも動くことが出来ない自分を責めたくなる。

そして、今、私は目の前に座るユリカにこうしてまた呪いの言葉を受けている。

つい無意識に出てしまった溜息がどうやら彼女は気に食わないらしい。

「ああ、もう。今日、何の日か知ってるでしょ?」

苛立ちを通り越し呆れたように言うユリカの声に漸く顔を上げた。

「今日?」

「エイプリルフール。人がせっかく渾身の嘘をついたってのに溜息一つだけ?もっと、リアクションしてよ。」

「渾身の嘘…」

「そう、嘘に決まってるじゃない。あんたね、いくらなんでも私だっていい加減、タカヤくん一筋な訳ないでしょ?あんたが結婚してから何年経ってると思ってんの?それに言うけど私、結婚一年目の新婚なんですけど?」

相変わらず目鼻立ちのハッキリとした綺麗な顔でテレビの婚約発表かのように顔の横に左手を出すユリカ。

その左手の薬指に嵌る指輪は眩しいくらいに輝いている。

ユリカは昨年、私達が通っていた高校の同窓会で意気投合した同級生と交際一ヶ月と少しでそのまま電撃婚。

驚いたけれどユリカらしくも思えた。

「そっか新婚だもんね。驚いたけどよく考えたら嘘に決まってるか。だけどーーー」

私は美味しくない紙のストローでアイスティを少し飲むとユリカに告げる。






「ユリカの旦那さんって実は私の元カレだよ。高校の時、誰にも内緒で付き合ってたんだ。知ってた?」





言い終わった口の中にはまだ紙のストローの味が残っていた。



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