嘘をつけない彼女達の事情
少し混み合ってきたカフェの雑音が露骨に耳につく。

それは私もユリカも無言になったから。

けれど沈黙はあっけなく終わった。

「アッハッハッハッ…はぁ、もうやだぁ。仕返しでしょ?はい、はい、騙されました、降参。これで気が済んだ?だけどね、あんたに嘘はつけない。それは私が一番知ってる。」

いくつになっても綺麗な笑顔でユリカが笑う。

「そっか。私って嘘つけないか…」

確かにそうだな。

一人納得する。

ふと、テーブルに置いていたスマホが一瞬振動した事に気付いた私はさり気なく手に取りメールのページを開く。



ーーー楽しんでる?



目の前のユリカに目を向けると、

「もしかしてタカヤくん?アズミの帰りが待ちわびしいとか書いてるんでしょ?結婚五年目なのに相変わらずラブラブだね。」

「返事してもいい?」

「どうぞ。」

そう言うとユリカはアイスコーヒーを飲みながら自分もスマホを手に取り弄りだす。

その様子を見てから返事を入れる。




ーーーお陰様で楽しんでる

ーーーそう、良かった。

ーーーもうすぐ、解散すると思うけどお土産いる?

ーーーいや、君だけで十分。

ーーーなにそのダサいセリフ。

ーーーマジで。

ーーーわかった。急ぐね。






「ねぇ、ユリカ、もうそろそろ時間じゃない?」

スマホの画面から顔を上げユリカに伝える。

「えっ、ああ本当だ。また今度、ゆっくりね。」

「うん。今日は楽しかった。気をつけて帰ってね。ここ、払っとくからいいよ。電車の時間。」

「いいの?ありがと。ご馳走様。ごめん、ギリギリだからお言葉に甘えて行くね。タカヤくんによろしく。」

最後まで隙のない完璧な笑顔を残してユリカが去っていく。

伝票を持つと私もカフェを後にした。



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