いけすかない男
 社員食堂で昼食をとっていた佐々木京香(ささききょうか)は、近くの席に座っていた市原風雅(いちはらふうが)と目が合い、軽く会釈した。
 京香と向かい合って座っていた伊藤淳子(いとうじゅんこ)が、京香の視線の先に目を遣り、同じく会釈した。

「素敵だよね、市原さん」
「そう?」

 京香はそっけなく返事した。

「もしかして京香、まだ根に持ってる?」
「別に」

 図星だった。

「まあどっちにしても市原さんは無しだけどね」
「何が?」
「だって市原さん奥さんいるし。まあ私は守屋(もりや)さん狙いだから関係ないけど」

 そう言いながら、淳子は遠くで談笑している守屋信一(もりやしんいち)に見入っていた。

 市原が既婚者だったことが意外だった。
 あの日、女を軽蔑するような発言をした市原が、どんな女を嫁に選んだのか、京香はそっちに興味が湧いた。
 淳子曰く、市原の嫁は以前市原と同じ営業部にいて、結婚を機に退職したらしい。
 そんな家庭的な自分の嫁だけは例外で、その他の女は尻軽ばかりだ、とでも言いたかったのか。
 京香は思い出してまた腹が立ってきた。
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