いけすかない男
 市原が部屋の鍵を開けた。

「わあ! すごい!!」

 こんなところに来ることなど滅多にない京香は、思わずはしゃいだ声を上げた。
 先程の店の続きのような、アジアンリゾート風の部屋だった。
 京香はコートとカーディガンを脱ぎ捨て肩をさらけ出し、ワンピース姿でベッドに身体を投げ出した。
 そして横目で市原の様子を窺う。

「佐々木さん、大丈夫?」

 そう言って近付き、京香に軽く布団を掛けると、市原は背を向けソファーに腰かけた。
 京香はそのまま、市原の後ろ姿を眺めていた。

 十五分程経った頃、市原がこっくりこっくり船を漕ぎ始め、京香は呆気にとられた。
 静かに起き上がり、カーディガンを羽織ると、ゆっくりと市原に近付いた。
 完璧な市原の無防備な姿を京香はじっと見つめた。

「――あ! ごめん、寝てた。大丈夫?」

 不意に目を開けた市原が慌てている。

「大丈夫じゃないです」
「気持ち悪い?」
「気持ち悪くはないし……酔ってもいません」
「――え?」

 市原は目を見開きポカンと口を開けている。
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