いけすかない男
「市原さんが何考えてるのか全くわかりません」
「……だよね。ごめん」
「え?」

 思いも寄らない言葉に、戸惑いが隠せない。

「ごめんって何ですか?」
「じゃあまず、何で酔ったふりなんかしてこんなとこに誘ったのか説明してくれる?」

 市原の真っ直ぐな眼差しに気圧され、京香は観念した。

「――あの日、あの飲み会の日、市原さんの言葉にすごく腹が立ったんです」
「ああ、あれだよね。浮気の……」
「そうです。私、かなり感じの悪い女だと思われてると思ってたのに、突然市原さんに食事に誘われて、何か腑に落ちなくて。しかも市原さん、あの日と別人みたいにすごくいい人だし。だから絶対何かあるって疑ってて……試したんです」
「身体張ったね~」

 市原はケラケラと笑った。

「それなのに……」
「それなのに?」

 市原が尋ねる。

「酔った女が目の前にいて、ホテルに誘われたっていう絶好のチャンスに、居眠りなんて始めるからビックリして――」
「それはつまり、襲ってほしかったってこと?」

 市原がいたずらな表情を向けている。

「ち、違います!」
「俺、そんな事しないから」
「わかってます。……わかってました。念押しです」
「ごめんね、佐々木さん。実は俺も試してた」
「え?」
「あの飲み会の日、佐々木さんが怒ってるのわかってたんだ。だから、佐々木さんが良かった」
「え? 全然意味がわかんないんですけど……」
「佐々木さんが、浮気しない女代表として、それを俺に証明してほしかったんだ」

 京香は堪らずプッと吹き出した。

「『浮気しない女代表』って何ですか? 真剣な顔して――」
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