ドSな天才外科医の最愛で身ごもって娶られました
 案の定贅沢な食卓である。前菜から始まる本格的なフルコース。メインは霜降り肉のステーキだ。

「おいしい! 向こうのお肉は硬いから」

「あらそう、よかった」

「おかわりしたらいい」

「あはは。やだ、おじさまったら」

 父は薫を気に入っている。珍しく冗談まで言って笑った。

「久しぶりの帰国で、ご両親は喜んだでしょう?」

「ええ、父なんて、もういい加減こっちに帰って来いってうるさくて」

 父がうれしそうに身を乗り出す。

「お父様のご活躍は常々聞いているよ」

 彼女の父は某大学病院の教授で、兄は俺と同じ心臓外科医。弟は医学の道に進まず今は厚生労働省の官僚である。エリート尽くしの家族に、母親の実家は由緒ある資産家というおまけつきだ。

 デザートにさしかかったとき、小池が「そういえば夕べ、コルヌイエに泊まったんですよ」と言い出した。

 母がハッとしたように「コルヌイエ?」と確認する。

「ええ。そうしたらちょっとガッカリするようなことがあって」

「あら。なにがあったの?」
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