ドSな天才外科医の最愛で身ごもって娶られました
 対になったピアスを手に、反省しきりという表情をして、深々と頭を下げる。

「大丈夫ですよ」

 本当は誤解して彼を疑っていたけれど、それは私の責任だから彼女はなにも悪くはない。

 私が見つけたときにすぐに彼に伝えていれば、悶々と悩まずに済んだのだ。

「いえいえ、どうぞお気になさらずに」

「慎一郎さまが子どもの頃、朝くしゃみをするのが続いたときがありましてね。布団の埃には特に気をつけるようにしていたんです」

「そうでしたか」

 女性は彼が小学生の頃からずっと朝井家で働いているというから、習慣でそうしただけなんだろう。悪気なんてないのだと、よくわかる。

 上がってくださいと言っても固辞し続け、女性は最後まで謝って帰っていった。

 胸の奥のしこりがひとつ、綺麗さっぱり消えたように気持ちが晴れた。

 我ながら現金なものだなと苦笑する。

 落ちたピアスひとつに振り回されるほど、私は彼に心を奪われていたんだろう。

 いつのまにか、心は慎一郎さんていっぱいになっていた。



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