ドSな天才外科医の最愛で身ごもって娶られました
 彼は迷いもなくキッチンの隅にあるシュレッダーにハガキを入れた。

 えっ、そんなあっさりと。写真つきなのに。

 

「雨が降ってきましたね」と、コールセンターの同僚が言う。

 ここは地下だから外の様子がわからない。

 季節は巡ってもうすぐ梅雨だ。

 日めくりカレンダーを確認しながら一枚ずつめくるようにして、毎日を懸命に過ごすうち、ひと月が過ぎた。

 ここで働くのも明日で最後だ。

 計算は合った。これでよし。

 伝票をまとめていると隣の席の女性が「夕月さん」と声をかけてきた。

「意外と事務やコールセンターも向いているんじゃないですか?」

「え? そうですか?」

「正直どうなんだろうって思っていましたけど、受け答えは堂にいってるし、さすがフロントにいた人だなぁって」

 お世辞だとしてもうれしかった。

 一生懸命頑張った甲斐があって、最近は事務のみんなも気軽に話しかけてくれるようになった。

「フロントの仕事はどう?」

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