ドSな天才外科医の最愛で身ごもって娶られました
 ばっちりメイクをして人形のようにめかし込んだ若そうな女性だった。二十代前半だろう。

 事情を説明すると八代は我が事のように左右に首を振る。

「大変だなぁお前も。うちの実家と違って朝井の実家はでかいからなぁ」

 八代の実家も医者だが、内科だけのクリニックだ。それに内科医になった彼の姉が跡を継ぐと決まっているらしく、彼には俺のような足枷はない。自由な未来が待っている。

「それでどうしたんだ?」

「もちろんその場で断ったさ。その気もないのに相手にも失礼だろ」

 はっきりと言った。

『結婚する気はないので失礼します』

 令嬢は驚いたように目を剥いたまま絶句した。

『慎一郎! まだわからないのか』

 父は激怒してソファーから立ち上がったが、俺は無視してリビングを出た。

「自立していない子どもじゃあるまいし、おとなしく聞いていられるか。まったく」

 結婚だけじゃない。俺は一人っ子できょうだいがいないから、早く子どもをたくさんつくれとまで言う。

 あきれて話にならない。

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