ドSな天才外科医の最愛で身ごもって娶られました
「軽く流しただけだから、後で一緒に入ろうな。髪を洗ってあげるよ」
耳もとでささやくように言うから、思わず肩をすくめた。
「くすぐったい」
後ろから抱きしめられたまま、クスクスと笑い合いあった。
「優斗、もうすぐ夏休みだろう?」
「うん」
九月の中旬まで二カ月近く休みらしい。一年生のうちはゆっくりできるようだから、できるなら遊びに行きたかった。
でも、この体ではね。しばらく北海道は無理だ。
「帰って来るように言わなきゃな」
「え? 帰るってどこに?」
「ここに決まっているだろう?」
慎一郎さんは微笑む。
「ほかにどこがあるんだよ」
そう言われても答えようがない。私たち姉弟が住んでいたアパートは引き払ってしまったし、優斗にとっての家は北海道のアパートで、それ以外には……。
「桜子はいまいちわかっていないようだが、この家は君の家でもあるんだぞ?」
口を挟む暇もなく慎一郎さんは「予定を入れる前に言っておくか」とスマートホンを手に取った。