ドSな天才外科医の最愛で身ごもって娶られました
 現実問題として、病院経営は規模が大きいほど難しい。盤石な経営基盤を築くためにも政略結婚が必要だという父の言い分ももっともだと思う。

 わかってはいるが――。

 嫌なものは嫌だ。



 コーヒーを口にすると、すっかりぬるくなっていた。

 天気はいいが一月の風は冷たい。薄い紙コップのコーヒーが冷えるのはあっという間だ。

「それで今度のホテル暮らしの方はどうよ」

「悪くない」

 快適だと言う代わりに親指を立てた。

「なにしろ最初に泊まったホテルは最悪だったからな」

 一流と言われているホテルだったが、コンシェルジュの女がやたらまとわりついてきて鬱陶しかった。

「いいなコルヌイエは」

「だろ? それで、ホテルには事情を説明したのか?」

「いや、なにも言ってない」

 詮索されるのは面倒だ。

 俺が住んでいるレジデンスでボヤ騒ぎがあった。俺がオペ中の出来事だ。

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