ドSな天才外科医の最愛で身ごもって娶られました
 電話を切った拍子に俺の気配に気づいたようで、彼女は後ろを振り返った。

「あっ」

 やはりそうだ。髪を縛らずに下ろしているし、化粧もしていないから確信はなかったが、やはりコルヌイエの彼女、夕月さんだ。

「夕月さん、ですよね?」

「ええ……。朝井様、もしかして」

 俺が羽織っている白衣を見て、彼女は戸惑っているようだ。

「はい。ここの心臓外科医です」

「心臓、外科医」

 確認するように、復唱する。

「ええ。そうです」

 ほんの一瞬だが、ハッとしたように目を見開いた彼女の瞳に、初めて俺に対する尊敬の意が表れた。

 俺もようやく認められたかと思いきや。そこはさすが夕月さんだ。

「そうですか。では」

 ペコリと頭を下げて立ち去ろうとする。

 相変わらずの素っ気なさに思わず笑った。

「骨折ですか?」

 立ち止まった彼女はとっさに左腕の手首に右手を添える。

 包帯を巻かれて痛々しげだ。

「ええ、変なふうに転んでしまって……」

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