ドSな天才外科医の最愛で身ごもって娶られました
 とそのとき、強い風が吹き抜けて、彼女の長い黒髪が頬にかかった。

「さあ、寒いですから中に」

「はい」

 歩きながら事情を聞いた。

 仕事中、転んでその拍子に骨折したという。たまたま倒れた先に置いてあった物とのあたり方がよくなかったらしい。

 俺が宿直でホテルにいなかった間の出来事だった。どうりで知らないはずだ。

「それは大変でしたね」

「参りました。あさってには退院できそうなんですが、この手ではしばらく仕事に支障が出ると思いますし」

「夕月さんにいろいろ頼めないとなると、俺も困るな」

「ご心配なく、うちには私よりも優秀なスタッフがたくさんいますから」

 いや、君じゃないと俺は非常に困るんだ。

「ところで夕月さんは弟さんが?」

 怪訝そうに彼女は振り返る。

「申し訳ない。さっき電話が聞こえてね」

「ええ、弟とふたりきょうだいなんです」

「いいなぁ。俺はひとりっ子でね」

「そうでしたか」

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