ドSな天才外科医の最愛で身ごもって娶られました
 これ以上は一緒に歩きたくはないのか、彼女は俺が向かおうとしたエレベーターがある方向には行こうとせず頭を下げた。

「では失礼いたします」

 言い訳でもするように「私は階段を使います。運動不足になってしまいますし」と苦笑しながら言い添えた。

「では。お大事に」

「ありがとうございます」


 いつになく落ち込んでいるように見えたな。

 電話を切って振り向いた彼女は泣き出しそうにすら見えた。俺に気づいてすぐに表情を取り戻したが。

 確かにあの手では仕事に支障があるだろう。

 でもそれだけで、あんなふうに沈むものだろうか。ほかになにか悩みでも……。

「あ、朝井先生。どうかなさいました?」

「いや、ちょっとね」

 興味津々の看護師に背を向ける。

 あさって退院なら心配するほどではないだろうと思いつつ、彼女のカルテを見た。

 なるほど綺麗に折れている。

 彼女の性格のようだなと、不謹慎ながら笑ってしまった。

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