ドSな天才外科医の最愛で身ごもって娶られました
「はい、フロントです」

 スイートルームがあるフロアにいるコンシェルジュの先輩からだ。

『あ、ちょうどよかった夕月さん、例のレジデンシャルのお客様がお呼びなの。お願いできる?』

 電話口で、小声で話しているらしい先輩は、最後に付け加えた。

「夕月さんをご指名なのよ。まだ出勤していないと言ったら来るまで待つっておっしゃって」

 ああ、またあのお客様か、と心でため息をつく。

 レジデンシャルとは長期滞在のお客様を指す。このホテルにも何人かいらっしゃるが、スイートルームにステイ中で〝例の〟とつくお客様に心当たりはおひとりしかいない。

「はい。わかりました」

 電話を切り、チーフに伝えて早速向かった。



 さて、今度はなにを言われるのやら。

 一昨日は早朝から至急欲しいという事務用品の買い物を頼まれた。コンビニを梯子してなんとか揃えたものの、走りすぎたせいでしばらく靴擦れに悩まされ、ひどいめに遭った。

 お客様の名前は朝井慎一郎様。

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