ドSな天才外科医の最愛で身ごもって娶られました
「ああ、もうどうしよう」
通りに出たところで、レジデンスを振り返った。
見上げた二階のバルコニーに人影はない。
あああーもう、と頭を抱える。
断るはずが、うまく丸め込まれてしまった。
『実は来週、両親がここに来るんだ』
朝井様はそう言って大きなため息をついた。
彼のお父様は熱心に縁談を持ってくるらしい。彼が医者になったときから始まって、二年前三十歳になってから加速度が増し、すでに十を超える見合い話があったという。
『独身主義者なのですか?』と聞けば『違う』と言う。
『いい加減、親からの干渉から逃れたいというのもあるし、結婚相手は自分で決めたい』
それはそうだろう。朝井様に限らず誰しもそう思うのが普通だ。
『両親には婚約者を紹介すると言ってしまったんだ』
『いないのに、ですか?』
『ああ。誰かに頼むつもりでいたんだが、このところ立て込んでいてね』