君はブルー【完】
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「ハッピーバースデー! ハルハル!」
ぱんっとクラッカーを鳴らして、家守さんはいそいそと私の頭に紙でできた三角の帽子を載せてきた。
とんがったてっぺんにぼんぼんが付いた愉快なやつ。
先週と打って変わって明るい様子の家守さんは、るんるんで私の手を引くと、得意げにテーブルの上のケーキを手で示す。
「じゃーん、すごいしょ、すごいしょ」
「ケーキ! 用意してくれたの!」
中央に『春ちゃんお誕生日おめでとう』の文字が書かれたプレートまで乗っている。
家守さん、先々週くらいから私の誕生日を祝う気満々なそぶりを見せてくれてはいたけど、ここまでちゃんとやってくれるとは意外も意外。
だってそういうの、本当に興味ないと思ってたから。
奥さんがいる人にとって、愛人、もとい不倫相手、つまり私なんて、どうでもいい存在なんだろうなって思ってたし。
大事にされてるのかもって、錯覚してしまいそうになる。
「一緒に食べよーぜ」
褒めて褒めてと言わんばかりのどや顔の家守さん。
けどガサツなので包丁もお皿も用意してこなかったらしく、ケーキ屋さんでもらったのであろうフォークだけを渡され、切り分けることなくホールごとつついて食べた。
「……なんか、こういうのって」
「しあわせ?」
「しあわせ」
ふふっと二人で笑って、口いっぱいにケーキを詰め込む家守さんの無邪気さをいとおしく思う。
家守さんはホールケーキをまるごと食べるのが夢だったんだと子供みたいに屈託なく笑う。家じゃ奥さんが許してくれないらしく、めちゃくちゃ嬉しそう。