君はブルー【完】
もし家守さんと私が結婚したら。家守さんが苗字をくれるって言ったら。誕生日のプレゼントがピアスじゃなくて婚約指輪だったら。
私は、春木春なんて、名乗るたびに聞き返されて、ちょっと恥ずかしい苗字をやめただろうか。
まあ、よくも悪くも記憶には残るから、一発で覚えてはもらえるんだけれど。
多分、家守さんがその一人だし。
『春木春さんて、変わった名前だねー。略してハルハルって呼んでいい?』
そんな風に距離を詰めてきた、家守さんとの出会いをぼんやりと思い出した。出会ってからまだ1年も経っていない、私たち。
水曜日、22時を回った居酒屋で偶然となりになって、気付いたら同じ卓で飲んでて。
思えば最初っから変な人だったな。
ハルハルなんて呼んでくるの家守さんだけだ。キしか略せてないし。
最初っから、お互いが、お互いの左手の薬指にはまる指輪には気付いていたけど、気付かないふりをすることにしたのか、お互い気にするタイプじゃなかったのか、それすらも分からない。
『結婚して、苗字が春木になっちゃって、下の名前が春だから、春木春になっちゃったんですよね。変ですよね』
『いいじゃん、ハルハルにぴったりだよ。ピンクって感じするから』
『ピンクって感じ……』
『ピンクって感じ』
『……家守さんなんか頭悪そうですね』
『ハルハル俺年上ね』
くくくと笑って私を面白がる家守さんの笑顔に惹かれて、そのままホテルに行った。
気付かないうちにそうなってた。気付いたらそうなってた。なんでか分からない。どうしてそうなったのか。
しいて言うなら、全然家に帰ってこない、不倫三昧の旦那さんへの、復讐?