君はブルー【完】
「ハルハルの誕生日は、金曜だから、その前々日の水曜に祝うよ」
「当日は?」
ちょっと意地悪したつもりで聞くけど、家守さんはわざとらしく困ったように肩をすくめるだけだった。
私たちは水曜日しか会えない。
水曜日は、家守さんの奥さんの仕事が夜勤の日だから。顔も知らない働き者のその人は、毎週水曜、夜7時に家を出て、木曜になった翌朝10時に帰宅するらしい。
家守さんはそんな隙をついて、私と愛をはぐくむ。
愛。
と、呼んではだめですか。むなしくなるだけですか。
「ま、考えといて」
「……はあい」
家守さんは優しい笑顔で私の髪の毛を撫でると、のそのそと体を起こし、ベッドの周りに散らばった洋服を一枚一枚拾い集めていく。
あ。終わりか。
今週のしあわせタイム。
終了。の、合図。
ワイシャツを着て、ネクタイを締めて、スーツを羽織る。一気に現実に戻ろうとする家守さんを裸のまま眺めながら、ずんと気持ちが沈んでいくのを感じた。
ブルーな気持ち。とは、このこと。
「ハルハルは泊っていくでしょ?」
「んー……」
「んー?」
「……家守さんもいっしょに泊まろ?」
「うわー、まいっちゃうな、かわいい。誘惑されちゃったよー」
と、言っておどけたように私を眩しがるふりをした家守さんだけど、私の誘惑は微塵も響いてそうにない。