9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
セシリアはデズモンドの方に向き直った。

エヴァンとは違う、男らしさに満ちたデズモンドの相貌が、真っすぐセシリアに向けられていた。

これまでの人生、彼の存在に恐れていた期間が長すぎて、易々と彼の言葉に頷くことはできない。

だがセシリアが彼に嫁ぐことによって、エンヤード王国に利益がもたらせるのなら、彼の手を拒んで処刑されるよりもずっといいのではないだろうか。

役立たずの聖女と罵られてきたが、最後くらいこの国の役に立ちたい。

「――はい」

セシリアはそう答えると、差し出されたデズモンドの掌に自分の手を添えた。

剣だこのあるゴツゴツとしたその手は、セシリアの小さな手をすっぽり覆ってしまうほどに大きい。

それからセシリアは、エヴァンを振り返り、微笑を浮かべた。

これまで生きてきた人生の中で、一番上手に笑えたように思う。
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