9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
あの男はたしか、宰相の息子だ。

権力があり見てくれのいい男なら、あの女は誰でもいいのだ。

そんなことにはとうに気づいていたし、だからといってどうでもいい。

エヴァンは会場を離れ、再び歩き出す。

セシリアが城を去ってからというもの、どこにいても何をしても落ち着かないし、楽しめない。

すると、木陰でひとり本を読んでいる少年に出くわした。

上質な深緑のジュストコールに身を包んだ、赤毛で身体の線の細い、大人しそうな少年である。

年は十四歳。エンヤード王国の第二王子、エヴァンの弟のカインである。

エヴァンに気づいたカインが本から顔を上げ、「兄上」とか細い声で言う。

「ティーパーティーには参加しないのか?」

「僕は、どうもああいうのは苦手で……。お兄様こそ、主賓なのにこんなところにいてよいのですか?」

「ああ。そうだが、少し散歩したくなってな」

「なるほど、そういう気分のときもありますよね」
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