9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
屈託なく笑う彼は、うらやましいほど純粋だ。

エヴァンと違って、見てくれも言動も大人しいため、普段は目立たない。

社交の場にも姿を現さず、こうして隠れて本を読んでいることが多いので、エンヤード王国に第二王子がいることを忘れている者すらいるほどだ。

「相変わらず、本の虫だな。そんなに面白いか?」

「はい。兄上も読んでみられてはいかがですか? 夢中になって読んでしまいますよ」

カインが今広げている茶色の羊皮の背表紙の本には、『ランダール物語』と金文字で記されている。

冒険物語か幻想物語の類だろう。

「いや、いい。俺は、物語というものはどうも苦手でな」

「そうですか」

カインが、残念そうに言う。

欲というものを捨てて生まれてきたかのようなこの弟は、人の目を気にしない性質だ。

周りがセシリアに対し高慢になっている中でも、彼だけは普段通りに接していた。
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