9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます

   ※

ジゼルのくれた薬は瞬く間に効果を見せ、セシリアの魔力熱はあっという間に下がった。

だが、九回も時空魔法を使った身では、また突発的な熱に倒れる可能性が高いという。

そのため、セシリアは薬をつねに保持し、いつ何時訪れるか分からない魔法熱に備えることにした。

だがセシリアの心を蝕む悩みの種は、別にあった。

(デズモンド様とジゼル様、すごく仲が良さそうだった)

魔力熱に倒れ、部屋に運ばれた日の夜、ジゼルと一緒にいるデズモンドを初めて目の当たりにした。

そして、見たこともないほどくだけた調子でジゼルに接するデズモンドを見て、セシリアは密かにショックを受けていた。

デズモンドは、セシリアに優しい。

だがジゼルに対する態度は、優しさを超えた特別なものに思えた。

いわば、互いを分かり合い、信頼し合っているからこそ成り立つ、唯一無二の関係だからこそなせる業だ。

(デズモンド様がお優しいから勘違いしかけていたけど、私の入り込む隙なんかなさそう)

デズモンドが教えてくれた自信がみるみる消失し、セシリアは臆病になっていた。 

もしも、ある日突然ジゼルとの婚姻を言い渡されたらどうしよう――そんな懸念ばかりが胸に浮かんで、デズモンドに会うのが怖くなってしまう。
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