9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
まるでセシリアの気持ちを読んだかのように、魔力熱で倒れたあとから、デズモンドの夜の訪問はピタリと止んでいた。

思い当たるのは、セシリアが時空魔法の使い手だと告白したことである。

(デズモンド様は、魔法が使えないと悩んでいた私の味方になってくれたのに、本当は魔法が使えたと知って幻滅なされたのかもしれないわ)

厳密にはもう使うつもりはないので使えないとしても間違いはないのかもしれないが、嘘は嘘である。

まっすぐで曲がったところのないデズモンドは、嘘を嫌う性質なのだろう。
 


吹く風が少し寒さを帯びてきた、ある日の夜。

今宵もデズモンドの訪れがなく、窓の外の月を眺めながら、セシリアはひとりソファーで紅茶を飲んでいた。

小さくため息をつくと、心配そうにこちらを見ているエリーと目が合う。

彼女にはきっと、セシリアが何に悩んでいるのか、見当がついているのだろう。

「セシリア様」
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