10年目の純愛
息子が10歳になった。


息子の年齢は、夫の裕太とあの人が次に会うことを教えてくる。
愛する息子の成長を喜ぶときに、胸の奥でチクリを針を落としてくる思い出をかんじ、自分がなんて嫌な母親なのだろうと自己嫌悪に陥る。


私はあの日のことは言わなかった。

これからの10年。
私達家族が幸せな毎日を過ごしていれば、裕太とあの人が逢うことはなくなるだろう。
彼が言う『現実』が幸せならば、二度と帰ってきたくないなんて思うことはないはずだ。

そう思って過ごしてきた。
そして、今年はもうすぐ終わる。

彼はおしゃれして出掛けることも、朝帰りすることもなかった。



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