冬のあしおと
 学生鞄を肩にかけて歩く彼女は、どこか浮かない顔だ。
 俺は、ずっと菜々を見ていた。浮かない顔の理由も知っている。
 菜々が密かに思いを寄せるクラスメート、相馬冬李(そうま とうり)がチョコレートを持っていたからだ。
 今日、この日に。後生大事にひとつだけ。
 相馬の学生鞄から覗いていた女子の好きそうなラッピングに包まれたそれを、菜々は見てしまったのだ。
 本命に違いない。
 菜々も――俺もそう思った。
 俺は菜々には笑っていて欲しくて、風を吹いて雪雲を呼び寄せた。
 菜々(彼女)の大好きな雪を降らせよう。
 季節はずれの雪で、彼女が笑ってくれることを願った。
 けれど、彼女の辛そうな表情は変わらない。
 その時、菜々の後ろから、シャリシャリという雪を踏む独特の足音が聞こえた。
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