アラ還でも、恋をしていいですか?
ときめき
朝早く台所にクツクツ、と小豆を茹でる音が響く。この甘い匂いは久しぶりだ。
もち米を準備しながら、浮き立つ気持ちを抑えようとした。
(これはただのお礼……たまたま助けてくださったから。それに、私も久しぶりにおはぎを食べたくなったから、ただそれだけよ)
そう、決して他意なんてない。
15で中学を出て就職するまで、私は島から出たことが無かった。昭和30年代の小さな島には娯楽もほとんどなく、裕福な家庭にラジオがあるくらい。
買い物は地区唯一の商店や食料品店で。文明生活は本土から十年以上遅れてた。
そんななか、地区に物知りと言われる男性がいた。
「どこぞの教授をしていた博士だ」とか、子どもには難しい情報だったけど。気さくなおじさんは家を開放して、子どもたちが遊ぶのを許してくれていた。
そして、おじさんの一人息子が健一兄ちゃんだった。