アラ還でも、恋をしていいですか?


車のエンジン音が響き、やがて遠ざかる。
おそらく、近隣のお店に食べに行ったんだろう。美人女将がいる小料理屋へ。


(なら、最初からそうしてくれればいいのに…)

夫の女好きには、とっくに諦めてる。

私が初めての妊娠で流産し入院したのに、章は一度も病院に来なかった。それどころか妻がいないのをいいことに、女の家を渡り歩いていた、と雅美から聞いた。

長くて30年ほど。短いと数ヶ月。
時には片手で足りない人数の女たちと同時に関係してた。女が会社や家に乗り込み、刃傷沙汰になったこともある。
妊娠した女が脅してきたこともあったけど、すべてお金で解決させていた。

そしてまもなく70という年齢でも、章は変わらない。相変わらず女好きで子どもっぽくわがまま。

嫉妬なんて、愛がないからもとからありはしない。

ただ、ただ。すべてを諦めた今は虚しくなるだけだ。

(このまま……義両親のように……私は章を看取るのかしら……)

それしか将来(さき)は見えないのに、なんだか重苦しく凝ったような気持ちになった。

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