アラ還でも、恋をしていいですか?
章は一度外出すると、少なくとも数時間は帰って来ない。
だから、私としてはむしろ家から出てくれた方がストレスが少なくありがたい。
(確か……あの人は毎日お昼前にあの道を通るのよね)
私はお昼ごはんの準備に間に合う時間帯に家に戻る。その時にスーツ姿の若い男性とよくすれ違うから、おそらく私を助けてくれた人はその彼だろう。
完成したおはぎをパックに詰めて、いつも通りの仕度をするために寝室に入る。着慣れた割烹着に袖を通そうとして、袖がほつれているのに気づいた。
(よく見たらかなりくたびれてるわ)
自分で縫い上げて20年以上着続けた割烹着は、かなり色あせ生地もクタクタで痛みが目立つ。肘には継ぎ当てまであててた。もんぺも似たりよったりの状態。どうせ畑仕事で汚れるから…と無頓着に着古してきたから。
(恥ずかしいわね…こんな格好)
自分自身でも不思議だけど、畑仕事に行くだけなのにいつになく格好が気になる。
久しぶりにタンスの上段を開くと、ガサガサと中を探る。
「……あったわ」
30年ほど前に縫って、一度着たきりだった黄色いエプロン。章に「似合わない」と嘲笑われ、引き出しの奥にしまい込んだままだった。