アラ還でも、恋をしていいですか?
黄色なんて若い頃でも派手なのに、還暦を過ぎた今の私には似合わないってわかってる。
でも……。
(いいじゃない。どうせ章はすぐ帰って来ないんだし、誰に迷惑をかけるわけでもないんだもの。
それに、お礼を言う時にだらしない格好をしてる方が恥ずかしいじゃない)
他人には笑われるかもしれないけど、なぜかあの彼なら笑わない……不思議とそんな気がした。
健一兄ちゃんが他人を馬鹿にしたり嘲ったりはしなかったせいかもしれない。
久しぶりに鏡台の鏡を開いて着替える。エプロンの下は小さな花柄のシャツに、薄茶色の綿のズボン。
(おかしくないわよね?あ、でも…)
髪の毛もぼさぼさだ。いつも楽だから後ろで一つに束ねるだけだけど、乱れるとだらしない…。
引き出しから柘植のクシを取り出して、丁寧に髪の毛をすいた。少なくとも100回。ゆっくり梳かしているうちに、若い頃は髪が自慢だったことを思い出す。
でも、章にことごとく否定され嘲笑われていくうちに、自分自身に何の自信も持てなくなっていったのだ。
(……これでよし)
髪を結い上げるなんていつ以来だろう。上手く動かない指でぎこちなかったけど、なんとか結うことができた。