アラ還でも、恋をしていいですか?
(き、来た!)
彼の姿が見えた瞬間、心臓が口から飛び出すかと思った。
もう6月で暑いのに、ネイビーカラーのスーツをきっちり着てる。少し茶色く染めた髪はふんわり整えられ、磨き上げた革靴とカバンはたぶん上質なものだ。太いまゆと面長ぎみで整った顔立ちも、健一兄ちゃんに似てる。
いつもはすれ違って会釈する程度の仲だった。だから、よもや私を助けてくださるなんて思いもよらぬこと。だからびっくりしたし印象深いのだろう…私は自分自身にそう言い聞かせる。ドキドキと鼓動が早いのは、慣れないことをしようとする緊張のせいだ。
待っていた、なんて思われたくなくて畑仕事をするふりをした。近づいたら気づいたふりをして…ごく自然におはぎを渡せばいい。そう目論んでいたのだけれども。
「あ!」
いきなり彼が小走りでこちらへ駆け寄るなんて、思いもよらなかった。
「こんにちは!もう、お体は大丈夫なんですか?」
「あ、こ、こんにちは。え、ええ…お陰様で」
私がそう答えると、彼はぱあっと笑顔になって心臓がドキリと音を立てた。