アラ還でも、恋をしていいですか?
「うまい!」
ひとつのおはぎを豪快に二口で食べた彼は、はぁと大きな息を着いた。
「程よい塩味とくるみが入った餡…懐かしいです」
「そう?」
「はい。おばあちゃんが作ってくれたおはぎに似てます…と言っても、おばあちゃんはぼくが小学生の頃に亡くなりましたけど」
「まあ…」
そう言った彼もさすがに悲しそうで…なんだか慰めたくなる。
(そうよ…彼は私を慰めてくれたから…それだけ。他意はないわ)
おばあちゃんみたい、と言われたも同然。64の私は20代の彼からすればおばあちゃん以外の何ものでもないのだもの。
「じゃあ……よかったらまたおはぎ作っておきますわ」
「ほんとですか!?やった!嬉しいなぁ」
無邪気に喜ぶ彼が可愛くて、思わずくすりと笑う。
「あ、そういえば」
ピタッと動きを止めた彼は、予想外の爆弾を私へ落とした。
「黄色いエプロン、夏らしくてかわいいですね!よく似合ってますよ」
太陽よりまばゆい笑顔でそう言われて。
心臓が爆発するか、と思えた。
(喜ぶな…ただの社交辞令だから本気にしちゃだめ)
でも……。
陽射しよりも熱くなった顔をそっと両手で包み隠し、麦わら帽子を深く被った。
(だめよ、本気にしちゃ……この子は孫のようなものだから!)
必死に自分に言い聞かせるけど。
健一兄ちゃん以来の50年ぶりのときめきは、確かに私の胸に宿っていた。