アラ還でも、恋をしていいですか?
驚いて私を家へ招き入れてくれたのは、藤野(ふじの)家の一人息子、健一(けんいち)兄ちゃん。
真夏だから放っておけばいつかは乾くのに、わざわざお風呂を焚いて入らせてくれた。
「海水は体と髪に悪いんだよ」なんて。島では貴重な薪と真水を使って。
うちではお風呂なんて一週間に2、3回がいいところなのに。しかも、いい香りがする石鹸を使わせてもらえて、びっくりした。
当時はお金持ちしか飲めなかったカルピスを、しかも氷入りで出してもらえて。こっくりした甘さの飲み物を口にするうちに、私はポロッと健一兄ちゃんに自分の情けなさを口に出してた。
「……どうせ、あたしは何もできない。魚一匹取れないんだもの」
「そうかな?」
健一兄ちゃんはなにを思ったのか、網と針金を持ってきて何やら細工をしてる。そして、それを「はい」と渡してくれた。
「これを仕掛けてごらん」
「う…うん」
半信半疑だったけど海に戻り、健一兄ちゃんの言うとおりに針金で箱型になった網を仕掛けてみる。餌になるものを置いて、石で固定して。
すると1時間後にはびっくりするくらいの魚が取れて、みんなにすごい!と言われたら、単純な私は得意になってしまった。