アラ還でも、恋をしていいですか?
「お手洗い、ありがとうございました」
恥ずかしそうに顔を赤らめた敬一くんは、ハンカチで手を拭きながらペコリと頭を下げた。
「いいのよ、これくらい」
私も不思議な気持ちでいた。
いつも見慣れた家なのに、今まで縁が無かった若い男性がいるだけで違って見える。なんだか少しだけ新鮮。
「あ、でも」
敬一くんはなにか気になるのか、洗面台の方を振り向いた。
「蛇口、緩くありませんか?なかなか水が止まりませんでしたよね」
「ああ…そうね」
確かに、ここ数年来洗面台の水道であちこち不具合があった。でも、業者を呼ぼうとしても章は金がもったいない!と私にどうにかしろ、と命じてきた。
でも、私も弄ったことがないから怖くて手をつけられず、そのままになってた。
「う〜ん、ぼくの見立てではパッキンかな…と思いますけど。あ、よかったら工具貸してもらえますか?一度見てみますよ」
「え?そんな!悪いわ」
「良いですよ。トイレお借りしたお礼です!えっと…止水弁は…と」
敬一くんは水道の元栓を締めて、さっさと手慣れた様子で蛇口を分解していく。
そして、ぱっぱと処置を施してくれた。