アラ還でも、恋をしていいですか?



「うまい!」

敬一くんはきんぴらごぼうを口にした途端に、そう叫んだ。

「ごぼうのシャキシャキ感や少し甘辛い味付け、ごまの風味が最高ですね。ご飯がすすみます」
「え、そ…そう?」

そんなふうにいつもの料理を正面切って褒められると面映ゆく、恥ずかしい。
どきまぎしていると、敬一くんはお椀を手にしてお味噌汁をひと口。

「お味噌汁もうまいです。出汁が…なんとなく懐かしいですが…あまり馴染みがないですね」
「あ、それあごだしよ」
「あご?」
「トビウオのことよ。中に入れてるつみれもトビウオのすり身よ」
「へえ…うん、トビウオのつみれも甘くて美味しいです!」
「ありがとう……そんなに褒めてくれて……」

毎日毎日、当たり前に作ってる田舎料理。夫は文句ばかりだったけど。こうして美味しそうに食べてもらえただけで幸せだ。

子どもや孫……血を分けた他の家族がいれば、こうしてあたたかな食卓を囲めたかもしれない。もしも、なんて意味が無いのはわかってるけれども。

里芋の煮物、きんぴらごぼう、つみれのお味噌汁、魚の照り焼き、お漬けもの、ほうれん草のおひたし…なんて若者は嫌うだろうに。敬一くんは気持ちいい食べっぷりでぺろりと平らげてしまった。

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