アラ還でも、恋をしていいですか?
「ごちそうさまでした。全部すごくうまかった!こんなにまともなご飯食べたの、久しぶりです」
そう言いながら、敬一くんはご飯茶碗でお茶を飲む。若い人がそんな事をするなんて、とびっくりした。
「あ、これですか?じいちゃんがやってたのでついつい……年寄りくさい、ってよく周りには言われますけど」
照れ笑いをした敬一くんの笑顔が、健一兄ちゃんと重なる。健一兄ちゃんもたしか、こんな習慣があった。島に来てからみんなに教わったんだ、と照れ笑いしてたっけ。
「い、いいえ…偉いと思うわ。ごはん一粒も大切にすること、とっても大事だもの」
「ですよね!もったいないですもんね。貧乏くさいとかからかわれましたけど…うん、ぼくは間違ってない!幸子さん、ありがとうございます。自信が持てました」
私がただ考えた事を口に出しただけなのに、敬一くんは大げさなくらい喜んでくれた。
でも、それよりも。私は敬一くんの一言で心臓が狂いそうになった。
(幸子さんって……名前、呼んでくれた……)
ごく自然に呼ばれたからすぐにはわからなかったけど、後からじわじわと恥ずかしい気持ちと嬉しい気持ちが湧き上がる。
個人の名前を呼ばれたのは、いつ以来だろう。私はいつでもどこでも“隈崎(くまざき)さん”に過ぎなかったのに。
敬一くんの一言が、私も一人の人間として認めてくれたような。そんな気がした。