アラ還でも、恋をしていいですか?


それから、敬一くんは平日のお昼ごはんはうちで食べるようになった。
初日に1か月分の食費として渡されたのが、5万円。

「こ、こんなにいただけないわ…」
「構いませんよ。余ったぶんはお小遣いにでもしてください」
「で、でも…」

困惑顔の私に、「じゃあ」と敬一くんは悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「残りをへそくりしておけばいいんですよ。旦那さんには内緒で」

敬一くんが唇に人差し指を当ててウインクすると、こんな私でも年甲斐もなくどきまぎしてしまう。

1か月に5万なんて、年配夫婦2人分の食費にもできてしまうくらいの金額だ。

(なら、もうちょっとお肉とか増やしたほうがいいわよね…肉じゃが…すき焼き…に、ハンバーグとか…作ってみようかしら)

義母が洋食を作る事を絶対に許してくれなくて、徹底的に隈崎家の味つけを仕込まれた。まだ結婚してしばらくの同居前は、洋食も作ったけど。

押し入れの奥にしまった金属製の衣装箱のさらに奥にしまい込んでいた料理本…昭和50年発行の色あせたそれを見て、結婚前はまだ少しだけ期待をしていたことを思い出す。

家族みんなで食卓を囲んで、私の手料理を競うように平らげ、美味しいと笑顔になる夢。

頼もしい旦那さんに、かわいい子どもたち……。

ぽたり、と涙が本に落ちる。

(いけない…泣いていても仕方ないわ…今は…敬一くんのために頑張らなきゃね)

割烹着の袖で、ゴシゴシと涙を拭いた。
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