アラ還でも、恋をしていいですか?
(やっぱり敬一くんは……健一兄ちゃんの孫かな……)
名前と顔が似てること、あごだしやあーくまきを懐かしいと言ってたこと。どれもその証拠にしかならない。
(だけど……どうして?健一兄ちゃんは島で結婚したはずなのに……こちらに来てたの?それに、私の家の近くが敬一くんの実家なら、そこに健一兄ちゃんたちも住んでたはず。私の交流範囲が狭くても、会ったり話を聞いたりしたことはないわ…なぜ?ただの偶然かしら?)
畑仕事をしながら汗だくになり、タオルで汗を拭いながら少し休むため岩に腰掛けた。
腰に下げた懐中時計を見れば、まだ11時10分。
なんだかそわそわしてしまう自分が可笑しくて、つい笑ってしまう。
(敬一くんが来るのがこんなに待ち遠しくなるなんて…あ、でも)
こんな汗だくになっていたら、きっと臭ってしまう。一度お風呂で汗を流して着替えなきゃ…と、立ち上がる時に腰が痛んだ。
「よいしょ、と……あたたっ」
前屈みになって腰に手を当てていると、なんだか視線を感じて振り向く。そこには、スーツ姿の敬一くんと同じ年頃の女の子がいた。
なぜか、私を睨みつけている?
(何かしら……私、見覚えないけれど…)
ツカツカ、とヒールを鳴らし近付いた彼女は、畑の手前で止まると胸の前で腕を組む。そして、怒気を孕んだ声でこう告げてきた。
「ちょっと、おばあちゃん。アタシのカレシの敬一に手ぇ出さないでくれる!?年を考えなよ!キモい!!」
ーー私が、敬一くんへの恋心を自覚した瞬間だった。