アラ還でも、恋をしていいですか?
(……羨ましい)
初めて、彼女に嫉妬した。
若さも、美貌も、きっと大学を出ただろう頭の良さも、自信も。
何一つ、私には持てなかったもの。
あれだけ自信を持てたら、私だって堂々と敬一くんに告白した。好きですって言えた。
でも、現実に今の私は還暦過ぎのしわしわのおばあちゃんで、愛はないけれど結婚してる既婚女性。敬一くんとどうこうなるつもりはないけれど、万に一つも選ばれる事はない。
じわり、と涙が滲むけれど、それを拭ってから彼女に向き直った。
(変な誤解をしてるみたいだから……解かなきゃ)
当たり前だけど、敬一くんにはこういう同年代の女性が相応しい。まだまだ先が長く無限の可能性を秘めているのだから、それを手助けするのは彼女の様な有能そうな女性がそばにいるべきだ。
それが、間違いなく彼の幸せにつながるのだから。
「ごめんなさいね。なにか誤解されてるみたいだけれど…藤野敬一くんなら、ただお昼ごはんを食べていただいてるだけですよ。私には孫みたいにかわいいけど、それ以外に他意はないわ」
自分自身に嘘をつくのは心が痛いけど、決して表に出せないと決意をしていた。還暦過ぎた老人が恋だなどと、色呆けして気持ち悪がられるだけだから。敬一くんだって顔に出さずとも、決していい気持ちはしないだろう。